伴侶動物向け 血液凝固異常の診療支援

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検査前の事項

  • 採血で注意することは?

    血液凝固因子はわずかな刺激によっても活性化されるため、採血には細心の注意が必要です。組織液が混入したり、溶血したりした検体は検査に適しません。採血は頚静脈などできるだけ太い血管から、19~23G程度の注射針を使用して行います*。注射針を血管内に一回で確実に刺入し、シリンジの内筒をゆっくりと牽引します。血液凝固検査用の採血では、真空採血管や静脈留置カテーテルを使用しない方がよいと思います。

    *可能なら駆血しないか、緩く駆血して採血します。

    *出血傾向のある症例では、頸静脈から採血すると皮下血腫を作りやすいので、採血後に十分に圧迫して止血するなどの注意が必要です。

  • 抗血液凝固剤は何を使うのか?


    血液凝固・線溶系の検査にはクエン酸ナトリウム溶液を用います。クエン酸ナトリウム溶液には3.13%、3.2%、3.8%の濃度のものがあります。凝固検査に初めて使用されたのは、血液と等張のクエン酸ナトリウム5水塩の3.8%溶液(109 mmol/L)でした。その後、人医療では、国際標準化委員会(現在のCLSI;Clinical and Laboratory Standards Institute、臨床・検査標準協会)が2水塩の3.2%溶液(109 mmol/L、pH 5.5)を国際標準として使用するよう推奨しています。2水塩の3.13%溶液もほぼ等張(106 mmol/L)ですが、2水塩の3.8%溶液は高張液となります。犬では3.2%溶液(109mmol/L)でも3.8%溶液(129mmol/L)でも止血機能検査にはわずかな影響しかないとの報告があります。著者の経験では、3.8%溶液の方が溶血を起こしやすいように感じています。

  • 抗血液凝固剤の量は?

    クエン酸ナトリウム溶液は、血液と正確に1:9の比になるように混和します。多血症などでクエン酸ナトリウムが過剰になると凝固活性が抑制され、凝固時間は延長します。一方、重度の貧血などでクエン酸ナトリウムが不足すれば凝固亢進状態となり、凝固時間は短縮します。したがって、多血症や重度の貧血の場合には、クエン酸ナトリウム溶液の量を次式により調整します。

    米国臨床・検査標準協会(CLSI)によるヘマトクリット(Ht)が55%を超える検体の補正式

    クエン酸溶液量=(1.85×10-3)×(100-患者Ht値)×(採血量) 

    上式は人の標準的なHt値を40%として導いている。これに準じて

    犬(標準Ht値45%)と猫(標準Ht値37%)の補正式を求めると、以下のようになります。

    犬;クエン酸溶液量=(2.02×10-3)×(100-患犬Ht値)×(採血量)

    猫;クエン酸溶液量=(1.764×10-3)×(100-患猫Ht値)×(採血量)

  • 血漿の作製方法(分離方法)は?

    血液9容に対してクエン酸ナトリウム溶液1容を正確に混和し、遠心操作により血漿(血小板乏血漿)を分離します。血漿中の血小板数が10,000/μL以下となるように、遠心は1,500~2,000 g*、10~15分間、室温18~25℃で行ないます。遠心操作が十分でないと血漿中に血小板が多数残存し、血液凝固反応に関わるリン脂質が多くなり、凝固時間に影響します。したがって、遠心力と遠心時間を低下および短縮してはいけません。

    *遠心力(G)=1.117×10-5×回転半径(cm)×回転数(rpm2

    回転半径:回転の中心から採血管の管底までの長さ(cm)

    採血後遅くとも1時間以内に血漿を分離し、新しい試験管に移注します。この際、バッフィーコートから1~2 mm上の部分までの血漿を採取し、血小板層を吸引しないことが肝要です。

  • 検体の保存で注意することは?

    健康な犬ではクエン酸血漿を室温(24℃)で48~96時間保存した場合に、48時間後にフィブリノゲン濃度がわずかに減少した以外は影響がなかったとの報告があります。また、犬の血漿を4℃で冷蔵した場合には、血液凝固第Ⅷ因子、第Ⅸ因子、第XI因子の活性が低下してAPTTが採血3日後に延長した、8℃の冷蔵保存では24時間後にPTが顕著に短縮し、フィブリノゲン濃度は8時間後と24時間後に減少したとの報告があります。したがって、採血後できるだけ速やかに(1時間以内に)測定するのが原則ですが、犬の血漿を室温あるいは冷蔵で採血24時間後まで保存しても大きな影響はないと考えられます。また、冷凍保存(-70℃以下)すると採血後6ヶ月間は安定ですが、凍結血漿はクリオプレシピテート形成を最小にするためにすばやく解凍し、解凍後は直ちに検査することが求められます。しかし、猫ではこの様な検討は行なわれていません。

  • 血液凝固検査用の検体に抗凝固剤としてEDTAを使うことはできるか?

    クエン酸ナトリウム溶液もEDTA(ナトリウム塩またはカリウム塩)もカルシウムをキレートすることで抗凝固活性を示しますが、EDTAはその作用が強いため、検体にカルシウムを添加しても凝固反応が起きません。したがって、EDTAは使用できません。

  • 輸血用クエン酸ナトリウム注射液(「輸血用チトラミン」)を抗凝固剤として使うことはできるか?

    「輸血用チトラミン」は、クエン酸ナトリウム・二水塩(分子量294.10)が、100mg/mLの濃度の溶液です。一方、血液凝固検査に用いるクエン酸ナトリウム溶液は、3.2%クエン酸溶液(クエン酸ナトリウム・二水塩(分子量294.10))の場合32mg/mLであり、クエン酸濃度が異なります。「輸血用チトラミン」を使用すると凝固時間が著しく延長するので、血液凝固検査には使用できません。

  • 精密検査ではどの項目を選択すればよいか?

    PTの単独延長の場合は凝固外因系の第Ⅶ因子、APTTの単独延長の場合は凝固内因系の第Ⅷ、Ⅸ、Ⅺ、Ⅻ因子、高分子量キニノゲンおよびプレカリクレイン、PTとAPTTの延長の場合は共通経路の第Ⅱ、Ⅴ、Ⅹ因子の他、すべての因子活性の測定が対象になります。

    基礎疾患(腫瘍、肝疾患など)があって、DIC(播種性血管内凝固)や止血異常(出血傾向、血栓傾向)を疑う場合には、因子活性を測定する前に、TAT(トロンビン・アンチトロンビン複合体)、FDP(フィブリン/フィブリノゲン分解産物)またはD-dimer(Dダイマー)、AT(アンチトロンビン)の測定を検討するべきです。

    FAQ;血液凝固異常症とは、も参照してください。

  • APTT試薬を多種類使用するのはなぜ?

    APTT試薬は、主として接触因子(血液凝固第Ⅺ因子、第Ⅻ因子、高分子量キニノゲン、プレカリクレイン)を活性化する成分(活性化剤:エラグ酸、シリカ等)とリン脂質(ウサギ等の生物由来、合成品等)から成ります。このためAPTT試薬は、活性化剤とリン脂質の種類とそれらの組み合わせによって多くの種類が存在し、試薬によって凝固因子活性に対する感度が異なるため、凝固時間に差が生じることが知られています。したがって、APTTは人医療でも標準化が難しいとされている検査です。さらに獣医療では、検査対象となる動物種が一種類ではないという特殊な状況があります。

    私たちは、犬と猫では、血液凝固異常症の病態によりAPTT試薬に対する感受性が異なることを把握しており、診断精度を高めるために複数の試薬を使って凝固時間(すなわち凝固能)を評価しています。

  • 人体用臨床検査センターで犬や猫の凝固因子活性を測定できるか?

    人と動物の凝固因子活性は異なり、例えば人の第Ⅷ因子活性を100%とした場合に犬の第Ⅷ因子活性は800%、猫の第Ⅷ因子活性は1,300%になります。このため人の測定系を犬や猫に応用すると正しい活性値(この場合は第Ⅷ因子活性)を得ることができず、血友病Aを診断できません。

    また、近年は感染予防の観点から、人体用臨床検査センターでは動物検体の測定を、原則として受け付けないようです(厚生労働省の指導)。